2023年5月15日 やっぱり村上春樹が好き
前回中国への出張直前に、
村上春樹の新刊『街とその不確かな壁』が発売、
滞在先のホテルで一日一時間半ぐらいで読み、幸福な時間を過ごしました。
この小説は、「壁」が大事なモチーフでした。
現実と虚構が混じり合うという前提、
その『壁』は意識と無意識の世界を分け隔てる境界を意味し
現実のその奥にある人間が共有する精神世界は、
自分の意識と無意識の行き来、深層心理の中、
私が人生の岐路のような時、
こっち、あっちに行っていればどうなっていただろう気持ちが分かります。
中国の書店の店頭で、村上春樹、東野圭吾、川端康成、夏目漱石
数多くの日本の文学作品が中国語に翻訳され、
中でも、村上春樹の『ノルウェイの森』は、十年もの間売れ続け、
その勢いが衰えないということは、
村上春樹の作品の独特な言葉遣いや、文章の簡潔、明瞭、
洗練された、とらえ所のない、知性が豊かな文章が
まさに中国人の好みにぴったり合っていたということでしょう。
中国は高速な経済発展に伴って、激しい競争が毎日のように繰り返され
そんな環境で挫折を経験し、孤独と寂しさを心に抱えた若者たちは
村上春樹の本に、心底共感できる広い都市の中で彷徨い、喪失感、
特に誰かと争う気もなく、社会と少し距離を置くのが特徴です。
『街とその不確かな壁』の中、私のもっとも好きな言葉は
「、、、なにかを強く深く信じることができれば、進む道は自ずと
明らかになってきます。そしてそれによって、来るべき激しい落下
も防げるはずです。あるいはその衝撃を大いに和らげることができます。」
村上春樹の壁を超す「信じる力」ですね。
やっぱり村上春樹が好きです。
林少華から翻訳『街とその不確かな壁』の中国版が早く店頭に並ぶことを期待しています。